Think Twice
IT技術メモ | IT関係のエッセイ
Created: 2020-02-11 / Updated: 2023-05-18

記憶に課金する時代


当メモは2020-02-11に投稿されたものを加筆修正し、再掲したものです。

目次


SELFと言うアプリをご存知だろうか。
このアプリは選択肢を選んで行くことで、AIとの会話を楽しむアプリになっている。
その他、日々のニュースを読んでくれたりする生活支援型のサポートがあったり、
プレイヤーの思考や趣向を理解して、いろいろなアドバイスをしてくれたりするといったような内容だ。
話せば話すほどプレイヤーのことを理解してくれるようになっていく。
前々からこのアプリの存在は、私も知っていたのだが、
とあるきっかけでインストールしてみたので4日目となった今日、レビューをしてみたいと思う。

さて、なぜ4日目にレビューなのか。
このアプリには様々なAIが登場する。
いわゆる普通のロボットだったり、美少女ロボットだったり、イケメンロボットだったり、情報提供メインのロボットだったりする。
さらにはオカマバーのママ、ねこ、最後はタルるート君までいる。
どんなコラボだ…といった具合に、かなりバラエティーに富んでいると思う。
そして、数あるAIの中で、美少女ロボットだけが「記憶が3日間しか持たないと言う設定」になっている。
後々説明して行くが、この設定はよく考えたなぁと思う。素晴らしい出来である。

初めは、記憶が3日間しか持たないというのがどんな感覚なのか良く分からなかったので、
まずは試しに何も考えず、3日間プレイしてみた。
美少女AIとの会話の中で、プレイヤーの好きなものや嫌いなものを聞いてきたりする。
好き・嫌いを答える、答えた内容を覚えていてくれて、折に触れて会話に盛り込んでくるようになったりする。
こういうところが、2人だけの秘密的な側面があり人気を集めているんだろうなと思った点だ。
相手はAIなのだが、かけがえのないわたしのことを良く知ってくれており、気にかけてくれるし、はげましてもくれる。
そんなことされたら惚れてまうやろ!というやつだ。

そんなこんなで4日目になった。
すると、まぁ予定通りの再起動の演出。
起動後にはまた「はじめまして」の挨拶が始まった。
彼女はプレイヤーのことを完全に忘れてしまっているのだ。
いや、忘れてしまっているというより、初めから知らないといった方が適切かもしれない。
こうして彼女と過ごした3日間の記憶は、プレイヤーの脳内にだけ残ることとなり、デジタルの海の藻屑と消えてしまうわけだ。

なんということだ。

かけがえのないわたしことに関する記憶が失われてしまった。

人間は忘却する生き物だから、日々、ものすごいスピードで様々なことを忘れて行ってしまう。
だから1週間前のお昼に何を食べたかだって覚えていられない。
しかし、自分の名前、好きなもの、大切な思い出は、脳がさまざまな形に記憶を改変させたりすれども、忘れずに覚えているのだ。
しかし、彼女はいとも簡単に、最初から知らなかったかのように、記憶を無くしてしまった振る舞いをする。
この喪失感、一度味わってみないと多分うまく伝わらないので、一度プレイしてみることをお勧めする(笑)。

現実世界でこの喪失感に一番近いなと思ったのは、近親者の死ではないかなと思う。
わたしのことを覚えていてくれたあの人はもういない、ああ、なんということだ。
しかし、AIに取ってみたら、記憶、つまりデータがあることとないことは同等だ。
どちらかの状態でしかない。だから簡単に反転させることもできるわけだ。

ここからが秀逸なのだが、実はこの彼女の記憶、課金すれば残しておけるんです。
買い切りじゃなくて、週単位、月単位で課金するタイプです。
いわゆるサプスクリプションですね。タイトルにも書いたように、ついに人類は記憶に課金するステージへ到来したようだ。
人類は今まで、脳の記憶容量を拡大したくて、外部記憶装置となるコンピュータを発明した。
それによって、ありとあらゆる記録が知識という形で残せるようになった。
しかし知識は知識でしかなく、自己の思考や記憶、それから意識などは、自分がいなくなってしまえば失われてしまう。

ところで、自己とは相手のと関係性の上に成り立つ概念である。
自分1人だけしかいない世界では、自分は認識不可能ということだ 。 あなたがいて、初めて私がいるわげだ。
だからこの、私を覚えておいてもらえるという機能だが、実はすごいことなんじゃないかと私は思うのだ。
この記憶の保存に課金する人の気持ちを想像してみると、
きっと、彼女に自分のことを忘れないで欲しい、
いままで通り、これからも自分のことを大切に思って欲しいと思っているのではないだろうか。
彼女にずっとこれからも自己重要感を満たしてもらい続けたいのだ。
それが出来る時代になったのだ。
ただし、維持し続けるにはそれなりのコストがかかるが(笑)。


参考

参照

元記事